岐阜県美濃市うだつのあがる町。かつて和紙の商人たちで栄えたこの町の中心に、宿泊施設「NIPPONIA美濃商家町」があります。繁栄を遂げた紙商・松久才治郎の賓客をもてなすために建設された別邸を、築90年の趣をそのままに、宿泊施設に改修しました。
豪快で商才に長けた才治郎ですが、一方ではお茶をこよなく愛した数寄者、文化人でもありました。どの部屋からも心地よい風光や、美濃の自然の恵みを楽しむため、大小5つの庭を囲むような間取りとし、茶室は稽古場を含めて4部屋配置されています。庭からつくり始め、完成まで5年の歳月をかけた旧松久才治郎邸の主屋で、最も趣向を凝らした茶室と庭と書院を、「満月」という名の客室として改修しました。重厚な畳床、四方柾目の床柱、総柾目の天井。時に庭と協調し、時に結界となる障子戸、雅やかな襖戸、波打つ無双窓、欄間や引手の一つにも主の趣味が見て取れ、巡るうちに最大限のもてなしの意が込められた建物であると気づきます。
今回、主屋の中でも最も広々としたお部屋「満月」の本茶室に、Season Lao「氷蓮図」が特別展示されました。(特別公開期間は2021.12.31まで)
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「氷蓮図」ではシーズン・ラオが東北で出会った光景がうつしとられています。 凍った池に、静かに終焉を迎えようとしている蓮の姿です。凍って止まった蓮の息は、風に揺られて息づき、眠れる遠の生命は、根の空間と、自然の白雪や雲が生み出す水墨画のような「間」となって表されており、繊細と静寂の作品中に東洋的自然観のミニマリズムを連想させます。
かつて主人がお茶で客をもてなした空間で自然の余白と対峙する時間は鑑賞者の精神性を引き出します。北大路魯山人の言葉 「坐辺師友(優れたものに囲まれて生活していると その心を自ずと学びとることができる)」を 思い起こさせる空間となっています。
「NIPPONIA美濃商家町」内の資材蔵だった空間を改修し2021年4月新しくオープンした「GALLERY COLLAGE」の杮落としとしてシーズンラオ氏が招聘されました。これまでも手漉きの紙を作品に使用してきたラオ氏ですが、美濃の歴史や人々と触れあい、和紙職人との対談や滞在経験を経て、美濃和紙という素材に宿る精神、またその美しい白さに惹かれ、美濃の新作を含めた「シーズン・ラオ 美濃・余白」を開催する運びとなりました。(Gallery展示期間:2021.4.27-9.26)
展覧会のオープニングイベントとしてラオ氏によるワークショップを開催し、美濃のまちの人々に参加していただきました。普段生活している日常の風景の中に流れる歴史に触れ、各自アーティストステートメントを作り、撮影を行い、それをラオ氏が後日講評するというもの。参加者にはその場所の気配を感じ、深く理解し、感性や発想を発揮することが求められます。ラオ氏からは現代アートの考え方や撮影するときの精神性、時間を経て自分の作品を見ることの面白さなどの講義があり、その学びを経てを伝えました。参加者が各々で作品を制作し、現代美術作家と直接交流するこのワークショップと展示を通じて、美濃のまちを新たな視点でとらえ発見する面白さを学びとる有意義な時間となりました。